七月に入り、いよいよ札幌でもこれから気温があがって、朝から晩まで暑くなる日が多くなりそうですが、こんな季節にはやっぱり、どんな人でも
冒険をしてみたくなるものではないでしょうか。
もちろん冒険といったって、なにもロープと懐中電灯をもって洞窟を進んでゆくわけではありません。
われわれの生活のなかにだって冒険は山のように潜んでいます。
たとえば、アマチュアで
バンド活動をしている人であれば、この季節にライヴ・コンサートを催さずにはいられないでしょう。あまり動員力のないバンドであれば、他のバンドと共同でステージを確保し、いわゆる
対バンという形式で一夜を盛りあげ、ある程度有名になっているバンドは、自分たちだけのコンサートをひらいて、全身全霊でファンの人たちをもてなすはずです。
ただね、あちらの世界は外から見るとなんとなく華やかに感じられますが、実際はそれほど派手ではなく、むしろ有名ではない大多数のバンドたちは、
見るもせつない努力と苦悩を、毎日のように抱えているのです。
わたしは過去に一度だけ、札幌市内の小さなライヴハウスへ行ったことがあります。知り合いの青年が、あるバンドの一員としてそのステージにあがると聞いたからです。
そのステージはある建物の地下にあるのですが、わたしは行くまえから、なんとなくそこには観客たちがぎゅうぎゅうに詰められていて、熱狂した幾人かが、その頭上をころげまわって奇声を発するようなイメージを抱えて、いささか気後れしていたものです。TVなどで見たことのある演奏シーンは、そのような激しい印象しかわたしの心に残してはいなかったからです。
しかし、いざ現場へ入ってみると、観客は驚くほど疎らで、かなり人数がすくない。そりゃそうです、出演しているのがまったくと言ってよいほど無名なアマチュア・バンドなのですから。来ているのはその友人、知りあい、家族の類のみ。
演奏がはじまっても、やっぱり人数が少なくて自然と目立ってしまうのが恥ずかしいのか、その少数の観客たちはホールの中央まですら出てゆかず、壁際に寄りそって、一曲が終わったときにだけ、かすかな拍手を送るだけでした。」
ひと口にバンドといっても、その世界にはさまざまなドラマがあります。
今夜はそんな、アマチュア・バンドマンたちの物語。
中村優一主演の映画
『僕らの方程式』という作品については、以前にご紹介しました。若手俳優総出演で、主題歌もよく、なかなか好印象の映画でしたが、あの作品をつくった
内田英治監督が、今度はアマチュア・バンドマンたちの青春を描きました。
タイトルは
『ビートロック☆ラブ』。
出演は、D-BOYSの一員で、以前ここでも強く推した「
あらやん」こと
荒木宏文、「
SuG(サグ)」というインディーズ・バンドで実際にヴォーカルを務めている
武瑠(たける)、『僕らの方程式』にも出演し、そして次回作で仮面ライダーを演じる
桐山漣、黒い長髪が印象的な
大河元気、甲高い声と細長いからだが役柄にぴったりはまっていた
小野健斗。
かれらは劇中で、ヴィジュアル系バンド「
LOVE DIVING」として登場します。
LOVE DIVINGは、すでにいくらかファンも獲得しているバンドですが、メンバーたちにいろいろと難があり、口論や衝突は日常茶飯事。みんなで愉しく、音楽を奏でよう、といった感じには毎日を送れていません。
とくにトラブルの中心にいるのが、ヴォーカルの
シン。かれはバンドの花形であり、人気の大多数を占めているせいもあってか、かなりの自信家で、掲げる目標はいつも「
世界制覇」。これ冗談で言っているのではなく、本人はいたって真面目で、バンドのメンバーもその扱いには何度となく困らされているのが現状です。
ある音楽事務所との契約が決まりかけていたのに、メンバーになんの相談もなくそれを破棄したり、スカウトしてきた業界の男を突きとばして追いかえしたりと、まあいろいろやってくれるわけです。そのせいで、メンバーたちはデビューの機会を失するわ、その突きとばした男の手がまわってしまって、賭けていた大会に出場できなくなるわで、バンド内は一時、かなり険悪なムードを漂わせ、ついには解散状態に陥ってしまいます。
あらやん演じるリード・ギターの
アキは、いつもは喫茶店でアルバイトをしながら生活しているのですが、そうしてメンバーと喧嘩をし、バンドを解散させてしまったものの、やはり心のなかでは晴れない感情があり、平穏な毎日をなんとなく単調にすごしています。店で出逢ったちょっとタイプの女の子の存在も、かれに影響を与えます。
季節は、夏。やっぱり俺には音楽しかない! と奮起したあらやんことアキは、メンバーたちに声をかけ、バンドを再結成させます。
しかし。そのころにはもう、ヴォーカルのシンはすでにある芸能プロダクションと単身契約を結び、寄せ集めの軽率なミュージシャンたちと新たなバンドを組んでデビューすることが決まっていたのです。
再結成と今後の活動を占うための単独ライヴの日は、なんとそのシンの新しいバンドの記者会見と同日でした。
あらやんことアキたちは信じます。きっとシンは向こうを捨ててこっちに戻ってきてくれる。そう心から信じて、ライヴ当日を迎えるのです。
青春映画のなかのひとつの要素として、
バンドという設定はとても興味深いものです。わたしも過去に一度だけ、高校生バンドの小説を書いたことがありましたが、いはやはなかなか難しく、満足のゆくレヴェルにまでは達することができませんでした。
この映画も、やはり然りです。あとすこしのところで、
感動的な青春映画になりそこなっている感が大いにあります。
内田監督はもしやすると、この作品を一般的な映画の方法論ではなく、
どちらかといえばドキュメンタリー・タッチの映画にしようとしたのではないでしょうか。手もちのキャメラだとか、喧嘩のシーンなどを見ると、あまり劇的にはせず、あまりきっちりとした構図には固定せずに、
そこに生きるメンバーたちの息づかいをリアルに映しだそうとしたのかもしれません。
しかしどちらにしても、
中途半端なことに変わりはありません。あとちょっとのところで笑えず、もうすこしのところで熱くなれない、
どうにもすっきりない青春映画になっていました。
キャストはわりと頑張っていますよ。何度も推しますが、あらやんこと荒木宏文は、ギターを弾き、テンションをあげ、キーの高いソロ曲も歌って、そんでもってメイキングのカメラには
いつでも笑顔で向きあい、
こちらを飽きさせないということに徹しています。
かれは、そのブログを読めばよくわかりますが、とても真面目な人なのですね。見た目は完全に元ヤンですが、根はとても素直で、演技というものへ真摯に臨んでいる人なのです。
ただ今回はすこし厳しくいうと、
かれの良いところと荒削りなところが両方見えてしまったかなあ。テンションの高いところ、逆に低いところは問題なく、演奏シーンも悪くはなかったのですが、たとえば喫茶店で、その女の子とすこしおどおどした口調でやりとりをする場面なんか、どうも不器用すぎて、
アキという青年が焦っているというより、荒木宏文という役者がその演技に窮しているようにしか見えないのです。ああいったところは、監督の力で、どうにか掬いとってあげてほしかったですねえ。
ほかにキャストで注目すべき人は、桐山漣と武瑠のふたりです。この人たちはおもしろい顔を見せてくれました。
桐山漣は、じつは楽器をほんとうに弾ける人なのです。おもにベース、そしてギターもやれます。自分のDVD
『Humidity 83%』では、見事なベース・プレイを見せていました。
おそらく今回のメンバーのなかでは、かれだけがきちんと楽器を操れていたのでしょうね。ほかの人たちは一応習って、曲にあわせて演奏しているように見せることはできても、じゃあ実際に音を出してくださいと言われたら、たぶん不可能でしょう。メイキングを見るかぎり、ほんとうに演奏できている人は、桐山漣を除いてひとりもいませんでした。
ですから、演奏シーンにおいて、かれの演技に心配をする点はいっさいないのですが、しかし映画全体を見ると、いささか今回は
影が薄かったですね。
印象がかなり薄い。もちろん、メインの役柄ではないですから、そこまで存在を主張する必要はないのですが、あれほどの人ですからね、なんだか勝手にもったいないような気がしてしまいました。
そして、武瑠です。わたしはこの人の普段の顔を知らないし、その歌声も、今回の映画のなかで聴いたのみですが、やっぱりね、その世界にはその世界で活躍する人の、なんというか、
凄味というかなあ、
迫力みたいなのがきちんと具わるものなのだなということを強く感じさせてくれましたよ。
演奏シーン以外で、
かれの演じるシンはほとんど笑いません。終始ぶすっとして、なんだか不機嫌で、いつも面倒くさそうにしている変な人です。背が小さいくせにド派手な服を着ているので、浜辺で写真を撮るシーンなど、パッと見「バッタ」かと思ってしまほど変な人なのです。
そんなシンがひとたびステージにあがり、マイクを握って観客席へからだを向けると、
その表情が一変します。ファンの子たちを煽るのにあわせて、まるで子どものような、
無邪気な笑顔を見せるのです。
わたしはヴィジュアル系の音楽をあまり聴いたことがないし、そういった方たちの演奏も見たことがないので、どこまでがよく行なわれているものなのか、詳しく知りませんが、たしかに、そのバンドの熱狂的なファンであれば、いつも不機嫌そうにしているヴォーカリストが、音楽にあわせて手をふりながら、そんな眩しいほどの笑顔を見せたら、たぶんころっと惚れてしまうでしょうね。女の子であればなおさらだと思います。
少数派の世界だから、一部の物好きな人たちの世界だからといって敬遠していては知ることができない、ちょっとした発見をするには手ごろな映画かもしれません。
『ビートロック☆ラブ』。不器用な冒険に満ちた、若者たちの映画でした。